【開催報告】<見る・歩く・話す>どう残す?戦争の記憶 ~東京大空襲をもとに考える~(2020年2月2日開催)
2020年2月2日、<見る・歩く・話す>どう残す?戦争の記憶 ~東京大空襲をもとに考える~を開催しました。
10代から70代までの16名にご参加頂きました。そのうち14名が高校生、大学生、社会人の10代~20代の方でした。
開催概要はこちら⇒ 【満員御礼】<見る・歩く・話す>どう残す?戦争の記憶 ~東京大空襲をもとに考える~ 2020年2月2日開催
<企画の背景>
戦後75年が経とうとしている今、戦争体験を直接語れる方も減り、戦争の歴史をどのように継承していくかが課題になっています。そのような中、3月10日の「東京大空襲」では一晩で10万人以上の犠牲を出したにもかかわらず、東京大空襲を専門に扱う公的な慰霊施設および資料館がないことから、今でもあり方をめぐって議論が続いています。
今回のイベントでは、東京大空襲に関連するふたつの施設を見学したうえで、これからの慰霊施設および資料館のあり方を考えました。
<企画概要>
・日時:2020年2月2日(日)13:00~19:00
・対象:主に高校生・大学生
※30歳代以上の方はディスカッションは見学
・主催:history for peace
<プログラム>
◆第一部 施設見学(13:00~14:20)
第一部では、以下の二つの施設に分かれ、見学しました。参加者は各施設で集合しました。
(1)東京都立横網町(よこあみちょう)公園
(2)東京大空襲・戦災資料センター
横網町公園は公立の施設、東京大空襲・戦災資料センターは私立の施設であり、この二つが現在東京大空襲がどのようなものであったかを伝える代表的な施設となっているため、これらの施設を見学することにしました。
(1)東京都立横網町公園
関東大震災と東京空襲の犠牲者を慰霊する「東京都慰霊堂」、震災と空襲がどのようなものだったのかを伝える「東京都復興記念館」などの施設がある公園です。参加者は最初に東京都慰霊堂を見学。慰霊堂では関東大震災、東京大空襲、横網町公園のなりたちを解説するDVDも観ました。その後復興記念館では、2階の東京大空襲の展示コーナーを中心に見学しました。
(2) 東京大空襲・戦災資料センター
東京大空襲をはじめとする空襲や戦争による一般民間人の被害の実相を明らかにし、それを伝えていくことを目的に設立された民間の施設です。東京の空襲被害だけではなく、日本が中国に対して行った爆撃や、ヨーロッパにおける第二次世界大戦の空襲なども伝えていることが特徴です。参加者は東京大空襲を伝えるドキュメンタリービデオを観た後、展示を見学しました。
◆第二部 インプット(15:20~16:15)
施設見学の後、錦糸町にある会議室に移動しました。そこで、施設見学の内容を掘り下げ、ディスカッションの参考となる情報をインプットしました。
第二部の内容は以下のとおり。
(1)施設見学の感想共有
2人1組を作り、それぞれ5分ずつ自己紹介、自分の観た施設の説明、感想共有、を行いました。これを2回繰り返しました。
こうすることで、自分が行っていない見学先についても知ることができるようにするのと、自分の中で見学の感想をしっかり認識することを狙いました。
(2)他の地域の慰霊・資料館のあり方の紹介
東京の施設のこれからを考える参考として、広島・沖縄・大阪・名古屋の各地域の慰霊施設・資料館の様子を共有しました。このうち、広島・沖縄・大阪は公立の施設を紹介し、名古屋は民間の施設を紹介しました。
(3)東京大空襲に関する慰霊施設や資料館ができた経緯
最後に、東京における空襲の慰霊施設・資料館をめぐる動きを、戦後直後から現在にいたるまで説明しました。
◆第三部 ディスカッション(16:20~18:40)
戦争の記憶をどのように残していくか、以下のテーマに対し、賛成派と反対派に分かれてディベート形式(※)でディスカッションを行いました。
※ディベート:ある特定のテーマの是非について、2グループの話し手が、賛成・反対の立場に別れて、第三者を説得する形で議論を行うこと
テーマ:「東京大空襲を専門的に扱う公的な平和資料館・慰霊施設」は必要か
<このテーマを選んだ理由>
今回見学した「都立横網町公園」は公的施設ですが、元々は関東大震災の慰霊施設・資料館でした。そこに東京空襲を加えた形です。また、「東京大空襲・戦災資料センター」は東京空襲をメインで扱っていますが、私立(民間)の施設になります。広島、長崎、沖縄など、太平洋戦争で大きな被害を受けた地域は、それぞれ「公的な」「その地域の戦争被害専門の施設」がある一方で、東京にはありません。そのことについて考えることで、戦争の記憶をどのように継承していくべきなのか、深く考察できると私たちは考えました。
<ディスカッションの進行方法>
ディスカッションは以下のような流れで進みます。
(1)チーム分け
テーマに対して賛成・反対の二つのチームに分かれます。チーム分けは主催側で行い、必ずしも自分と同じ意見のグループに参加できるとは限りません。
(2)準備時間
各チームで、主張する「論点」をまとめます。その際、以下の5点を考えながら、論点を導くようにしました。
①どうして「東京大空襲」なのか
②そもそも平和資料館・慰霊施設は何のためにあるのか。(=施設を作ることで達成したい目標は何か?)
③「公的」な施設である必要性は?(=「公的」であることにメリット・デメリットはあるのか?)
④施設ができることによって誰にどんな影響が出るのか?(損する人・得する人)
⑤施設を作る以外に②の目標を達成する方法はあるか?
論点が決まったら、発表者を決めます。今回、なるべく全員が発表をするようにしました。
(3)ディスカッション本体
賛成・反対それぞれのチームから、順番に「論点」(主張する意見)と、論点に対する反論を述べていきます。これを2回ずつ繰り返します。
反対チームの論点①:
施設を建てなくても、学校に体験者を派遣するなど、教育などで代用することが可能。
➡賛成チームの反論:
戦後時間が経ち、体験談を語れる人も減っている。またこれから学校教育で行うとすると、卒業した人(および今既に大人の人)が受ける機会がない。
賛成チームの論点❶:
長く維持していかないといけない施設なので、継続性を担保するには費用面で公的であることがふさわしい。
➡反対チームの反論:
公的施設であっても経済的に維持し続けられるとは限らない。赤字の施設は継続できない可能性もある。
反対チームの論点②:
公的施設の実現は費用面でハードルが高い。
➡賛成チームの反論:
広島のように、観光の目玉のひとつとして育てることも可能。観光客からの収入も見込むことができ、投資として考えることができる。
賛成チームの論点❷:
公立の施設を作ることは、公(おおやけ)として戦争の責任を明らかにすることができる。諸外国に対する意思表明にもなる。
➡反対チームの反論:
責任を果たす方法は施設を作ることに限られるものではない。他の方法でも行うことができる。
これでディスカッションは終わり、すべてのプログラムが終了しました。
慰霊施設や資料館をどう残していくか、普段あまり議論することはないだけに、難しい面もありましたが、とても活発な議論が交わされました。
参加者の方からは、「ディスカッションがとても刺激的だった」「東京大空襲のことを深く考えることができてよかった」といった意見をたくさん頂きました。
一方で、「テーマが難しかった」「進行がバタバタしていた」などの意見も頂きました。これらの意見を今後の運営に生かして、よりよい企画を行っていきたいと思います。
<メディア取材>
当日はNHKに取材を受け、翌日朝のニュースで放送されました。
“戦争の記憶 どう伝える?” 若者が考える催し 東京(2020年2月3日 8時08分 NHK NEWS WEB)